はじめに
こんにちは、くじらです。
今回は、どちらも原状回復義務について定めている、民法(以下法令名省略。)121条の2と、545条の違い
についてまとめます。
きっかけ
原状回復請求をするときに、121条の2を使う時と、545条を使う時があります。
この使い分け方を簡潔に説明しているインターネット記事やブログが、なかなか見つからない印象を抱きました。それゆえ、私で、わかりやすく、簡潔に、まとめようと思いました。
結論
121条の2は、「無効な行為に基づく」債務の履行としての給付を受けた者が、原状回復義務を負うと定める規定です。
他方、545条は、「解除の結果」、各当事者が、原状回復義務を負うと定める規定です。
条文の根拠
無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
民法121条の2 第1項
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
同法545条 第1項
詳細な解説
民法121条の2第1項について
民法121条の2は、全く新しい条文です(太文字は私による)。
無効な契約に基づいて代金支払いや目的物の引渡しなどの給付を受けた者が、原状回復義務を負うことが規定されています。改正前は、一般に、民法703条、704条の不当利得の規定が適用されるものと考えられていました。
この点、民法703条は善意の受益者が現存利益の範囲で返還する義務を負い、民法704条は悪意の受益者が利益に利息を付して返還する義務を負う旨を規定しています。
しかし、これをそのまま適用すると、強迫を受けて契約した人は強迫されていることを通常認識していますので、悪意の受益者として利息を付さなければなりませんが、錯誤に陥って契約した人は錯誤について認識していませんので善意の受益者として現存利益を返還すれば良いということになってしまいます。
このような結論は妥当とは言えず、単に知っているか知らないか(悪意か善意か)で結論を変えることに合理性が認められない場面がありました。
そこで、最近は、多くの学説が、このような事例で、民法703条、704条を形式的に適用するのではなく、ケースに応じた類型的な処理が妥当であると主張されていました。このような学説の主張を踏まえ、民法121条の2が新設されました。
そして、民法121条の2第1項は、取消しにより初めから無効になった場合を含め、無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、原状回復義務を負うとし、原則として元に戻すべきであることになりました。
https://www.yokohama-roadlaw.com/column/231211212.html#:~:text=民法121条の2は、全く新しい条文です,考えられていました%E3%80%82
これは、現に利益を受けている限度(現存利益)で返還すれば良いわけではありません。
つまり、121条の2というのは、「取り消されて」無効になった行為に基づく債務の履行を、原状回復する際においても、用いることができるのです。
それに対し、545条に関しては、判例が採用する「直接効果説」(契約の効果は、not将来効、but遡及効。)によれば、原状回復義務というのは、解除によって生じたというよりかは、契約が遡及的になくなったことで、全給付を返還しなければならなくなるという意味での、不当利得で善意者は現に利益を受けた範囲とされていることの特則と、理解できます。(少々応用ですね。)
発展
取消しと解除の共通点と相違点
まず、共通点は、どちらも単独行為であり、効果も遡及効であることです。
他方、相違点は、合意による取消しはないこと。そして、取消しが契約自体の瑕疵に基づくものであるのに対して、解除は契約後の事由に基づくものであるということです。
終わりに
いかがでしたか?
皆さんの疑問が晴れるのに役立てたなら幸いです!
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コメント
【訂正】
それに対し、545条に関しては、判例が採用する「直接効果説」(契約の効果は、not将来効、but遡及効。
→それに対し、545条に関しては、判例が採用する「直接効果説」(契約の‘’解除の‘’効果は、not将来効、but遡及効。