はじめに
こんにちは、くじらです。
刑法総論における、緊急避難の法的性質について、まとめます。
結論がすぐ知りたいという方は、目次の「①について」というところへ。
なお、参考文献は、大塚裕史ほか著『基本刑法1 総論 [第3版]』(2019年、日本評論社)です。
本論
概要
緊急避難(刑法(以下法令名省略。)37条1項)は、
正当防衛(36条1項)や自救行為と並び、緊急行為の一種です。
通説によれば、いずれも、違法性阻却事由とされています。
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緊急避難の意味は、
「自己または他人の生命・身体・自由・財産に対する現在の危難を避けるためにした行為であり、他にその危難を避ける方法がなく、その行為から生じた害悪が避けようとした害悪の程度を超えなかった場合のこと」です。
本質
そして、その本質は、正対正の関係にあります。
すなわち、正当防衛は、「不正」な侵害行為がなされたからと「正」当な利益を守るために不正な侵害行為をなした者の利益を侵害するのに対して、
緊急避難は、「正」当な利益を守るために、これまた第三者の「正」当な利益を侵害するからです。
このことから分かるように、緊急避難により侵害を受ける人間は、何ら不正な行いをしていない人間であり、
それゆえ、緊急避難は、その成立要件が厳格になるわけです。(なお、補充性の要件や、法益の権衡の要件として顕在化します。)
正当防衛は「不正(違法)の侵害」
の場合にのみ成立しましたが、
緊急避難の場合は「正の侵害」に対しても成立します。
また、正当防衛は地震、火事、暴風雨といった
自然的事実に対しては成立しませんでしたが、
緊急避難は成立し得る事になります。
違法性阻却事由の緊急避難の要件についてわかりやすく解説 | リラックス法学部 (yoneyamatalk.biz)
では、本題へ。
緊急避難の法的性質
緊急避難の法的効果は、「罰しない」と37条は規定しています。
では、この「罰しない」とは、どういう帰結なのか。説が分かれます。
通説は、違法性阻却事由説です。
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ちなみに、通説を含め、大きく立場は三つあります。
①違法性阻却事由説、②責任阻却事由説、③違法性阻却と責任阻却の2つの場合があるとする二分説です。
その根拠
「①刑法37条は、自己や親族のためばかりでなく、他人一般の法益を守るための緊急避難を認めている。…②避難によって生じた害が避けようとした害を超えないことを要求している」(207頁)。
では、それぞれの根拠を具体的に考えてみましょう。
①について
責任阻却事由説との対比が、理解にとって重要となります。なぜなら、「期待可能性」がキーワードであるからです。
なぜ、責任阻却事由説が、なぜ責任が阻却されると考えるかというと、期待可能性がない、すなわち他の適法な行為をその状況下では期待できないと考えるのです。
しかし、本当にそうでしょうか。
たしかに、自己が危機的状況に陥ったら、何が何でもその状況を抜け出そうと画策するでしょう。
しかし、他人の法益を守るために画策するという自身が客観的に動いている場合においても全て、他の適切な行為をその状況下では期待できないということはないだろう。そういうことです。
むしろ、社会的に相当な行為であるから、罰されないとされているのではないかと。
②について
これも責任阻却事由説との対比で考えると理解がはかどります。
責任阻却と考えれば、本人に期待可能性がないのですから、Aという危難がきたとして、そのAを避けるために、さらにBという危難を招いてしまったとしても、どうしようもなかったのですから、しょうがないと、この立場で素直に考えるとそう導けます。
すなわち、責任阻却と考えると、
緊急避難が要件で「法益の権衡」や「補充性」という厳しい要件を設けている意義がゆらいでしまうのです。
違法性阻却事由説の立場からは、緊急避難としての行為により守られる法益と、それにより危険にさらされる法益を天秤にかけているのだから、その意図は、社会的に相当といえるかどうかという基準が背後で働いていると考えるのです。
テーマに付随した補則解説
ちなみに、
通説によれば、「補充性」もしくは「法益の権衡」の要件を欠く場合はどちらも、「過剰避難」になるとされています。
そのときの刑は、任意的に、減免です!
すなわち、過剰避難とされたときは、減免されることもある、というイメージ。
おわりに
違法性阻却事由説の理由をまとめると、
①他人の利益を守ろうとしているときまで、自身に期待可能性はなかったといえる?そうではないだろう。というのが1つ。
②期待可能性がなかったとするなら、それで正当な利益を有する第三者の利益を害してしまうこともしょうがないといえそう。しかし、緊急避難は、正当防衛に比べて、補充性と、法益の権衡という、より厳格な要件の設けており、期待可能性がなかったとしながら、酷な要件を突きつけられる。いやそうではなくて、社会的に相当であるかという基準が裏で動いているのだろう、というのがもう一つ。
以上がイメージのまとめでした。
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