◆ 「もしも空腹までVRで感じられたら」と考えてみた
ある日、ふと思いました。
仮想空間のなかで人と会話をし、建物の中を歩き、手で何かを掴むような体験が当たり前になりつつある今。
もしその延長で、「味覚」や「空腹感」まで、VR空間で再現されるとしたらどうでしょうか?
つまり、脳を錯覚させてリアルに限りなく近い感覚を仮想的に再現する世界。
一見まだ夢のような話に思えますが、実はすでにその兆しは見え始めています。
今回は、そうした「五感を超えたVR」の可能性を、実際の研究や技術開発をもとに考察してみたいと思います。
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◆ すでに実現している「仮想現実」の領域
◎ 視覚・聴覚:もはや日常レベル
VRゴーグルやARグラス、360度映像などによって、「見て・聞く」仮想体験はすでに多くの人にとって日常的なものになっています。
Meta Questシリーズ、Apple Vision Pro、PlayStation VRなどが代表例です。
◎ 触覚:手触りや温度すら再現するグローブ
たとえば米HaptX社が開発する触覚グローブでは、空気圧や微細な振動を使って「触れた感覚」や「重さ」「形状」まで再現可能。
日本でも同様の研究が進められています。
• 電気通信大学・梶本研究室では、皮膚に温熱・振動などを与える装置を研究しています。
👉 https://www.uec.ac.jp/research/members/opal-ring/1000368350.html
• また、日本バーチャルリアリティ学会では、「皮膚間の温度変化による触覚提示」についての研究が報告されています。
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◆ まだ発展途上の領域:味覚・嗅覚・空腹感
△ 味覚:すでに「電気刺激」で再現が始まっている
味覚を仮想空間で再現する研究も、すでに始まっています。
• 明治大学・宮下芳明研究室は、舌やスプーンに電気刺激を与えることで味(特に塩味)を強調する「電気味覚」の技術を開発。
キリンと共同で「エレキソルトスプーン」を開発し、**イグ・ノーベル賞(2023年 栄養学賞)**も受賞しました。
👉 https://toyokeizai.net/articles/-/887752
👉 https://meijinow.jp/meidainews/research/97415
• **シンガポール国立大学(NUS)では、Nimesha Ranasinghe教授が「デジタルロリポップ」**と呼ばれる装置を開発。
電気と熱刺激で、舌に甘味・塩味・酸味・苦味を感じさせる研究が進んでいます。
👉 https://en.wikipedia.org/wiki/Digital_lollipop
👉 https://phys.org/news/2013-11-singapore-simulator.html
👉 https://www.smithsonianmag.com/innovation/using-electric-currents-to-fool-ourselves-into-tasting-something-were-not-180970005/
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△ 嗅覚:香りを届けるVRデバイスも登場
米OVR Technology社は、VR体験中に匂いを届けるデバイスを開発中です。
装着者の視点や行動に連動して、香りのカートリッジから香りが放出される仕組みで、すでに医療・教育・エンタメ分野での実証が進んでいます。
👉 https://ovrtechnology.com/
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× 空腹感の制御:もっとも困難なフロンティア
空腹や満腹感は、視覚や味覚とは異なり、内臓やホルモン系と密接に関わっているため、再現は非常に困難です。
一部の脳波制御・神経刺激による研究は進んでいるものの、まだ初期段階です。
将来的には、Neuralink(ニューラリンク)などのブレイン・マシン・インターフェース(BMI)技術が、この領域を変えるかもしれません。
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◆ 「脳の錯覚」としての現実再構築
これらの研究の本質は、人間の脳が持つ補完・錯覚の性質を活用することにあります。
たとえリアルに物理的な体験をしていなくても、脳が「本物だ」と信じれば、そこには“現実”があるという考え方です。
🧠 おわりに
バーチャルリアリティは、もはやゲームのための技術ではありません。
それは「人間の感覚と現実の境界線」に挑戦する、極めて根源的なテクノロジーです。
味も、匂いも、触感も、空腹すらも──
脳がリアルだと錯覚すれば、それはもう“現実”と言えるのかもしれません。
この未来は、想像以上に近くまで来ているのです。
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