読書において感情移入は善か悪か 思索

思索と雑記

はじめに

こんにちは。今日は、小説の読み方について、思索をしたいと思います。

キーワードは「感情移入」です。

感情移入

皆さんは小説を読む時、「感情移入」はしますか?

感情を込めることや、他者の感情に寄り添うことは一般的に良いこととされます。

それと同じように、フィクションが相手でも、フィクションの中の登場人物に身を重ね、思いを馳せることが、その作品に深く没頭できていることの一つの指標とされている実態があるのではないでしょうか。

では、作品を深く味わうことにつながると思える「感情移入」は、いつも素晴らしいものでありうるのでしょうか。

感情移入の肯定的な側面

まずは、感情移入の良い点について考えてみましょう。

次のようなものが挙げられるでしょう。

①読者に強く印象を残す。②他者理解の訓練になる。③読書体験の没入感が高まる。

①読者に強い印象を残す点について

「推し」という言葉が今日広く普及しています。推しの対象の選択方法は、人によって千差万別でありうるところですが、その中でも、自分に重ねてしまう背景を持つキャラを推しに選択する人も多いのではないでしょうか。

そうすると、推しのキャラがどのような言動をするのか、その一挙手一投足に注意が注がれることで、その登場人物の行動、ひいては作品の物語が読者に強い印象を残すことになるでしょう。

②他者理解の訓練になる点について

読書は、生身の人間が本来一度しか味わえない人生の制約を、超越させるものとしてその意義が説かれることがあります。

本の数だけ、他人の人生を追体験できるというのも、あながち言い過ぎではないでしょう。

自分と異なる境遇や性格を持つ本の中の登場人物たちは、自分と異なる考えをし、行動をし、交友関係を気付き、運命に翻弄されています。

フィクションといえども、自分とは異なる人間の生活を覗くことは、他者の考えに思いを巡らせる訓練になるでしょう。

③読書体験の没入感が高まる点について

感情移入をすることができれば、読書への没入感は飛躍的に高まるでしょう。

作品の中で生きている登場人物をはっきりとした感触で捉えれば捉えるほど、登場人物が暮らす本の中の世界は現実味を帯びて、読者が没入するのに耐え得る強度を手に入れるでしょう。

感情移入の否定的な側面

ここまでは感情移入の良い点をみてきましたが、反対に否定的な側面はないのでしょうか。

感情移入は、以下のような形をとるとき、誤読や表面的理解につながる危険があります。

①自己投影に過ぎない感情移入、②主人公を道徳的にジャッジする読み、③物語を「感動装置」として消費する読み、です。

①自己投影に過ぎない感情移入

登場人物の事情や背景を無視し、「私だったらこうするのに」という読みをすることです。

そのような読みになると、登場人物の固有の事情や背景に基づく言動の機微が蔑ろにされることにより、その登場人物の言動が、ストーリーの中で整合性のないものとなって浮いてしまうこともあり得ます。

そうなると、自己投影による感情移入の結果、作品全体の一体感が減退してしまいかねません。

②登場人物を道徳的にジャッジする読み

登場人物の葛藤を「いい/悪い」で短絡的に評価することになれば、作品への理解や没入感は表層的なものにとどまるでしょう。

たとえ登場人物が、自分の感性や信条と反する言動をしようとも、いったんはそれを受け止める姿勢が必要になるでしょう。

③物語を「感情装置」として消費する読み

あくまで自分の感情を満たすための装置として物語を利用する読みをすれば、登場人物の人格は透明化されてしまい、これも表面的な読書体験にとどまってしまうでしょう。

小括 「登場人物の人格の透明化」

以上のように、感情移入が恣意的なものになれば、感情移入の副作用として、かえって作品への没入感が減退し、ひどい場合には、その作品の意図まで誤読してしまう危険があります。

さらに、登場人物の人格が「透明化」されてしまうことで、自分のリアルな現実では体験できないことを体験できるという読書の意義であり素晴らしい側面が、自分の感性により狭い世界に閉じ込められてしまいかねません。

感情移入はメリットもありますが、それと同時に、以上のような危険性も隣り合わせています。

感情移入以外の読み方

①観察的な読み方

登場人物の言動を一歩引いて観察し、その内面や動機を推測するものです。

②構造的な読み方

物語全体のテーマ、語り口、時間の構造に注目するものです。

③倫理的な読み方

登場人物が直面している問題を、自分の価値観とは切り離して考えるものです。

結論

感情移入は、作品を味わうための一つの手段です。

感情移入はあくまでも読者各人の自由であり、それ自体が善でも悪でもありません。

しかし、読者が主人公の人格や物語の構造に注意を払い、思考と想像力を持って向き合うことをすれば、感情移入は非常に豊かな読書体験をもたらします。

登場人物の人格を軽視しない感情移入をしたなら、文学は「心の投影の場」にとどまらず、「他者に出会う場」としてより有意義なものとなることでしょう。

おわりに

今日は「感情移入」について、話を深めてみました。

いかがでしたでしょうか。

素敵な読書ライフを。✨

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