座右に置いてある書籍に、エッセイはありますか?
はじめに
評判のいいエッセイが、必ずしも自分に合うものとは限りません。
その意味で、座右におきたいと思えるようなエッセイに出会えることは、実は大変幸運なことではないでしょうか。
今回は、私が座右に置いているエッセイ2冊を、紹介したいと思います。
私の座右にある2冊
1 山口小夜著『小夜子の魅力学』(文化出版局、昭和58年)。
2 長谷部千彩著『有閑マドモワゼル』(光文社、2006年)。
1冊目 山口小夜子著『小夜子の魅力学』
私は広告やデザインに目がないのですが、ある日、資生堂の広告でモデルを務める一人の女性を初めて目にし、視線を奪われました。
彼女の名は山口小夜子。海外では「東洋の神秘」と称賛されたパリコレモデルです。
そのときの彼女の切れ長の目をはじめとする特徴的なメイクによるルックスは、強烈な自我を持つかのようにも見えれば、一方で役に徹した無垢なマネキンのようにも映り、その深く吸い込まれるような美しさに魅了されました。
このモデル活動を知って以来、彼女がどんな人なのか強く興味を持ち、結果として手にしたのがこのエッセイでした。
この本のおもしろさは、彼女が仕事や日常のことをいたって自然体で語りながらも、その随所に彼女独特の美学が息づいている点にあります。
彼女の紡ぐ文章を読むと、普段から物事に対して心を開き、感情を丁寧に変化させながら感じたことを持ち続けていることが伝わってきます。
淡々とした語り口の中に、喜びや驚き、共感、そして決意がぎゅっと詰まっているのです。
山口小夜子という人間の奥深さを味わえる、とても素敵な一冊です。
2冊目 長谷部千彩著『有閑マドモワゼル』
SNSでフォローしていた方が紹介していたのが、私とこのエッセイの最初の出会いでした。
著者の長谷部千彩さんは、「女」という存在について、自分が考え、望み、そして生きてきたことを率直に綴っています。
彼女が追い求める「女としての」生き方や思考は、とても眩しく、可愛らしく、そしてかっこよさを感じさせます。
昨今の男女を同質化する流れとは異なり、彼女は「男」と対置される「女」であることを強く自覚し、その立場を貫こうとしているように見えます。
この姿勢は、決して現代のLGBTQのジェンダー論と対立するものではないでしょう。
このエッセイは、「女」であることを自覚した彼女が、自身の理想とする「いい女」を自らの生き方で体現していく姿と、そのスタンスを記録しています。
一見「女一般」について語っているようで、実際には長谷部千彩という唯一無二の「女」の物語が綴られているのです。
おわりに
「自分に合う」エッセイというのは、なにも、共感できるものである必要もないでしょう。
全く共感できないけれども、どうしてかその語りに引き込まれてしまう。
そんなエッセイが見つかれば、それは単に共感できるエッセイよりも、貴方にとって価値あるものかもしれません。
いい読書ライフを!
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